- “Otaku”企画 vol.10 -
 
 
 
 

「動かざること山の如し、桟積みの話。」

 
 
2022/02/21

 

 
木地師の仕事は「木を挽く仕事です」と紹介するし、される。がしかし、その挽く前に非常に重要で、その後の全てを左右する工程があることをご存知でしょうか。それは『ザ・乾燥!』この乾燥が上手く行かないと、いくらその後の工程で技術を駆使しても自然素材である木材は扱うこと自体が非常に困難に。ましてや山中漆器の技である薄挽きなどは、木が割れて挽くことさえも出来ません。しかしながらこの「乾燥」という工程、実はひじょーーーーうに奥が深い。全てを語りだすと日が暮れて明けて暮れてしまうので、今回のOtaku企画のテーマは山中漆器のイメージで良く出てくる積み重なったお椀の山、その積み方にフォーカスしてご紹介します!
 
 
 
 
 
 
 
  

美しいものこそ、乾燥が命!

 
 
 
 
 
 
木地師の紹介、山中漆器の紹介でこんなイメージ↑をよくご覧になるのではないでしょうか。これは何をしているかというと、まさに乾燥処理をするための積み上げ。桟(さん)積みです。
 
荒挽き師さんの元で削られた荒挽きの木地は、木そのものの水分を含んだいわゆる“生”の状態で私たちの工場にやってきます。そのまま放っておくと自然乾燥が進み、中の水分が徐々に蒸発していきます。自然素材である木は乾燥して水分を抜いておかないと、蒸発する過程で自分の好きな方向に曲がったり縮まったりするため、いわゆる“歪み”が出てきてしまうのです。ガタガタのお椀や、波打ったお盆やお皿…日常遣いにはちょっと難しいですよね。
  
 
  
 
 
 
  
 

秘技!桟積み!

 
 

 
 
 
 

ということで、荒挽き師さんから頂いた“生”の木地は挽く前にまず乾燥!その下準備のためにこの写真のように、どんどん乾燥室の中に積み上げていきます。この積み上げ方が『桟(さん)積み』。この呼び名は椀物の木地だけではなく、木材全般の空気を通し乾燥する積み方全般に使う呼び名なのです。
 
こんな風にどーっと同じ向きに積み上げるのは全体を均等に乾燥させるため。積み上げが完了すると、この木地たちは乾燥の工程に入っていきます。
何が自慢かって、この積み重ね作業はただ何となくやっているのではなく、実は木から水分が抜けて縮むことを計算に入れて積んであるということ。一つ間違えば乾燥中にバランスが崩れドンガラガッシャンと全て水の泡に。壮大な高級ジェンガ!!!なのです。
 
 

 
 
 
 
 
 

木地さんに行儀よく居てもらうためには。 

 

 

 
 
 
 

私たちの得意とする薄挽きや、私たちの得意なIPPONGIなどに使われる繊細で細い挽物の技術は、山中漆器特有の縦木という木材の取り方そのものにもありますが、この乾燥という工程をなくしては語れません。
ちなみに、木材の乾燥は私たちが髪を乾かすようにただ表面からゴーっと熱風をかけるだけではなく、実は『蒸気』を使います。人間でいう静脈部分、木材の奥の奥の細かい管まで水分をコントロールするためには、ただ乾かせば良いというわけではなのです。(蒸気の話はまたいつかのOtaku企画で)
毎回工場に届いた荒挽きの木地たちは、状態丁寧に確認され、幅や高さなど微調整をされながら乾燥室内に桟積みされます。そして、数日に渡り蒸気に包まれた高温のこの部屋の中で徐々に徐々に整えられていくのです。水分量は季節の移り変わりによる湿度や気温にも左右されます。そして木の種類や状態によっても変わります。何ともない積み上げのようにみえる桟積みは、実は長年の経験と知識からくる感覚が頼りの職人技なのです。
 
昔の方々は、木の乾燥に何か月も何年もかけて自然に乾燥させてきました。私たちは技術と知識で一週間程でこの乾燥の工程を終えることが出来ます。だからこそ、繊細な木地挽きを実現し、日常の器になるような価格設定が出来るのです!えっへん!

 
 
 
 
 
 
 
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