- 対談企画 vol.5 山師 瀬川氏 に学ぶ -

 
 
 
 

『ほとんど毎日山に入ってます』

 
 

2021/04/17

  

 

“山師(やまし)” 皆さんはその命を懸けた職業を知っていますか。山中漆器を始め、木を素材に使用する産業はまず木を買い求めるところからはじまります。その木を山から伐りだし、私たちの元へと運んでくれるのが山師さん。まさに産業を根底から支える大切な仕事なのです。
vol.1の荒挽き師 戸田さんとの対談企画(vol.1 &vol.2 )で、一番話題に上がったのが山師さんの現状のこと。ならばっ!直接お話を伺おうということで、実際の丸太が取引されている市場へ出向き、山師さんにお話を伺いました。市場のお話はOtaku企画で以前取り上げているのでそちらも是非⇒“Otaku”企画vol.07「器の原点“木”が集まる市場の話」
  

 
 
 

 
 
 
 
 

<山師>
山に入り木を伐り倒し、山から下ろし市場に運ぶところまでを担う。身一つで木に登り、枝を落とし、方向を定め切り倒す。山の地形や木そのものの知識、倒す方向を定める判断等多くの経験と知識が不可欠な仕事。一歩間違えれば命を落とす、そんな命がけの仕事でもあります。山師に関する紹介はOtaku企画 vol.04 でも取り上げています!映画から実際に体験できるその迫力を是非。

 
 
 
 
 
 
 
 

"木に関することは何でもやっとるね""

 
  
 
 

 
 
 

-場所は丁度石川との県境にある福井の木材市場。生憎の雨降りだったこの日、競り直後のお忙しい中、山師の瀬川さんがミニインタビューに応じてくださいました。間を取り持ってくれたのは、先日対談をしてくださった荒挽き師の戸田さんです。長年間接的にお世話になっていましたが、初めてお会いしたため好奇心が前のめりになり、普段聞けない素朴な疑問を沢山ぶつけてしまいました。

 
 
 
久保出貴雄/匠頭漆工三代目(以下久保出):
今同じ山中漆器という産地の中でも、色々な立ち位置の方々にお話を伺っていいます。先日は戸田さんから荒挽き屋としてのお話を改めてインタビューさせて頂いたんです。瀬川さん一家はお父さんが山師をやられてたんですか?
 
瀬川氏/有限会社白鷺木工代表取締役(以下瀬川):
うちのじいちゃんからだね。
 
久保出緋沙子/匠頭漆工三代目嫁(以下緋沙子):
三代目ですね。うちと一緒です!
 
久保出:
具体的にどの辺りの山から木を伐ってらっしゃるんですか。
 
瀬川:
どこでも木があれば。実際は石川、福井県内が多いですね。
 
戸田義治氏/有限会社白鷺木工代表取締役(以下戸田/戸田さんは瀬川親子と親交が深い):
今父親と二人でやってるの?
 
瀬川:
父親と自分とあと二人おって、全部で四人体制です。 
 
戸田:
そしたら量的に沢山出さんといかんね。どれぐらいの頻度で山に入っとるんや?
 
瀬川:
そうなんです。ほとんど毎日山に入りますよ。殆ど通ってるというか。
 
戸田:
逆に山で木を伐っとらん時は何しとるん?
 
瀬川:
まぁほとんど木を伐っとるね。あとは買い付けもあるし。あとは市場で伐りだした木を出したり、参加したり。
 
戸田:
自分らで伐った木を運んで市場に出さなあかんもんね。忙しそうや。雪なんか降ったりしたら大変やね。雪降ったら保証金もらっとるんか?
 
瀬川:
今年は少ないけど雪が降ったらなかなかね。苦笑 うちは保証金はもらっとらん。山に入るだけじゃなくて木に関することは何でも請け負っとるね。例えば街路樹を伐ったり、植木を伐ったり。依頼があればどこでも。
 
戸田:
でも木を伐る仕事で、例えば街の木を伐ってくださいって言われたらいくらぐらいで請け負うの?
 
瀬川:
金額は木や状況に応じて決めているので上下しますよ。レッカーが必要な時はまたその分金額は上がるし。
 
緋沙子:
危険を伴う仕事ですもんね…
実際に一本の木を伐るのにどれぐらいの時間がかかるんですか?
 
瀬川:
すぐ伐れます。まずは路網*を整備して、その後足に付ける爪とかロープを使って道具使って上に登って枝を落とす。これはロープ仕事って言います。広葉樹の場合は枝取ってちょっと坊主っぽくして、根っこの方を切っとるんや。そのあと例えば近くに家とかあったらクレーン使って、家とか当たらんようにして倒す。そうしたらやっぱり費用かかるやんね。
 
 

路網:
森林内にある公道、林道、作業道の総称、又はそれらを適切に組み合わせたものことを指します。木を伐ったあとに山の麓まで下ろすまでには、木を伐った場所から~トラックに乗せるまで、乗せてから運び出すまで安全に行わなければならない。 森林施業を全体的に効率的に行うためには、路網の整備がとっても重要になります。

 
 
緋沙子:
命がけですね…でも木がないと家も建たないし、お椀も出来ないですもんね。
 
戸田:
だから本当に、仕事の重要さと比べると今の市場の状況だと価格が合わんよね。赤字になっちゃう。さっきの競りでもそうやったけど、一本が一万弱で買われていくんやよね。それ倒すために一時間も二時間もかけて運んできて…なぁ。
 
瀬川:
そうやね。そうすっとやっぱ(価格は)合わんやんね。昔は違ったんだけどねぇ…
 
久保出:
今自分らも、木の価値をなんとか世間に再認識してほしいなというので動いてるんですけど…まだまだこれからですね。
 
 
 
 
 
 
 
 

”昔は馬で引っ張っとったんよ。”

 
 
 

 
 
 
久保出:
どうやって伐る木を決めているんですか?
 
瀬川:
その木の場所確認して、そこから持ち主を辿っていくって感じかな。基本的には持ち主は一人分ければ、両隣分かるしそうしたら大体土地の所有者はわかっていく。それで持ち主のところに言って頼みに行くんやよ。
 
戸田:
黙って伐ってくるんことはないんか?笑
 
瀬川:
それはないです。笑
 
緋沙子:
木(=土地)の持ち主から代金を請求されることはないんですか?
 
瀬川:
それは所有物だからやっぱり言うよね。でも例えば状態の良い欅とか価値のある木には、10万20万出して買うときもあるよ。
 
久保出:
でもそういう風に持ち主から請求されたりすると、価格的にどんどん合わなくなってきませんか?
 
瀬川:
そうだね。そしたらでもやっぱり一本じゃなくて、数を集めるかやね。賄えるぐらいの数を揃える。少し昔は欅も木材としての良い値段してんだけどね。最近はなかなか。
 
戸田:
いつからこういう状況になったんやろね…需要と供給の話なんだろうけど。
 
瀬川:
そうやね。人気の木種っていう流行もその時その時であるし。例えば今は欅は殆ど建築材に使わないとか。でもやっぱり、価格のバランスも改善していくといいなとは思っとるけど。
 
久保出:
欅は暴れ木だから知識や技術がないと本当に扱い辛いですもんね。でも、使い辛いからといって使わないっていうのもなんだかなぁ…
木を倒す方向っていうのは100%コントロール出来るもんなんですか?
 
瀬川:
殆ど大体は。危険を伴う仕事だからしっかり見定めるよ。
 
戸田:
昔は馬で引っ張っとったんよ。うちの親の時は自分で木を切って自分で作っとったけど、やっぱり谷のとこまで馬を引っ張ってたんだけど、石とかに引っかかると、もう馬も可哀想に、馬が涙出すんやて辛いやで。それをけつ叩いて、やってたもんな。やけ、それを思い出すわ。でもそうしないと人間の力では引っ張ってこれんし。機械はないし。
 
瀬川:
今は色んな部分が機械化されたね。でも今は取りやすいところには木が少なくなってきたからねぇ…機械が入れんところも沢山あるしね。色んなことがあるわ。
 
緋沙子:
今度木を倒すところも是非拝見したいなぁ…
 
 
 

-競り後の忙しい中(そして冷たい雨が降りしきり中)突撃インタビューにも関わらず、ご対応頂いてしまいました。この時判明したのですが、実は会社がご近所さんだったので、また改めてゆっくりお話を聞かせて頂きたいと実感したインタビューとなりました。ありがとうございました!

 
 
 
 
 

おわり(全一回)