- 対談企画 vol.7  山中漆器産業技術センター呉藤安宏氏に学ぶ (全二回) -

 
 
 
 

第一回『日本全国で唯一の存在

 
 

2022/06/09

  

 

第七回目の今回は私たち作り手を支えてくださっている産地の頼もしい存在、石川県立山中漆器産業技術センター(石川県挽物轆轤技術研修所)の呉藤安宏[ごとう やすひろ]さんとの対談企画です。
 
呉藤さんは私たち匠頭漆工との関わりも深く、普段から大変お世話になっています。改めてゆっくりと向かい合ってお話を聞くのは、例によって今回が初めて!山中漆器という産地において、作り手でもなく問屋でもなく売り手でもない『産業技術センター』という中立的な立場からのお話は非常に興味深く、新しい発見てんこ盛りでした。二代目章二、三代目貴雄ツインでお邪魔した今回の対談、今までの作り手さんとはまたぐっと違った新しい視点でのお話をお楽しみください。今回はその第一回目。(全二回)<インタビュー実施日2020/12/09>

 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
  
 

"轆轤研修事業と産業振興事業の二本柱!"

 
 
 

 
 
 
 

-一緒にずっと仕事をさせてもらってると意外と相手のことを知らないことが多いもの。改めて話すのは“お初”の今回、まずはそもそも山中漆器産業技術センターとは?という素朴な問いから始めさせて頂きました。

 
 
 
久保出貴雄/匠頭漆工三代目(以下貴雄):
呉藤さん、宜しくお願いします!まず初めに、山中漆器産業技術センターの概要や目的などなど改めて教えて頂ければなと。
 
呉藤安宏氏(以下呉藤):
こちらのセンターの建物自体は県の施設で、運営は財団が行っています。官でも民でもない、いわゆる第三セクターという位置づけです。
二つの事業が柱になってるんですけども、一つ目は日本一を誇る山中漆器の木地挽きの技術後継者を育成する轆轤(ろくろ)研修事業。もう一つは地元の山中漆器の産業を振興する人物を育成する産業振興事業です。私自身は後者の担当をしております。
 
貴雄:
一つ目の柱の研修事業は研修生を取り講師が教える、まさに「学校」というイメージし易い事業なので産地の人はみんな知ってます!もう一つの柱、産業振興の方は僕もざっくりとしか知らなくて…普段こちらにあるレーザーカッターなどを貸して頂いたりはしてるのですが、それも一部でしょうか。他にどういうことをやられてるんですか?
 
呉藤:
そうですね、一番は漆芸教室といって毎週火曜日の夜なんですけども、漆塗りの髹漆(きゅうしつ)*、乾漆(かんしつ)*、蒔絵(まきえ)*の技法を学べる教室を行っています。地元の漆器関係の人たちを中心に参加して頂いてますよ。
 
 
 

髹漆(きゅうしつ)とは
を塗ること。また、漆を塗ったもの全般。
出典:コトバンク

 
 

乾漆(かんしつ)とは
奈良時代に盛行した漆工芸の技法。技法には脱活乾漆(脱乾漆)と木心乾漆の2種があり、前者は粘土の原型の上に麻布をいく重にも漆で覆い固めて成形し、乾燥後、中の原型を取り去るもの。後者は心木に布を漆ではり重ねて成形する。中国の夾紵きょうちょが起源。古代では𡑮そくなどとよばれた。
出典:コトバンク

 
 

蒔絵(まきえ)とは
漆工芸の加飾の一技法。漆で文様を描き、乾かぬうちに金属粉(金、銀、錫(すず)など)や顔料の粉(色粉)を蒔き、固着させて造形する技法、及び作品をいう。
出典:コトバンク

 
 
 
貴雄:
研修所の生徒だけじゃなくて、外部の人も誰でも受けれる教室ですよね。うちの職人もお世話になっております。
 
呉藤:
はい。組合の方々や研修生も結構いらっしゃいます。
跡を継がれる時なんかに、「漆器ってそもそもどういう風に作られてるか」というのを、この研修を通じて自分で手を動かしながら勉強する方も多いです。
  
貴雄:
そうなんですね。知らんかった…!教える講師の方はこちらに所属されている方なんですか。
 
呉藤:
うちで教えていただいてる講師の先生方は、皆さん現役の職人さんです。通常のお仕事の空いた時間で来てもらってるんです。
 
久保出章二/匠頭漆工二代目(以下章二):
俺の親父(初代である久保出政雄)はこちらの教室で教えてたりとか、色々やってたみたいやよ。俺も以前してくれって言われたけど、時間が足りなくて。自分の工場を持ちながらというのは結構大変なんよ。
 
呉藤:
そうですね。今も久保出さんには是非お願いしたいですけどね。材料の乾燥なんか特に。
 
章二:
自分も自分の父親から受け継いだことを教えたいんやけど、やっぱりこればっかりはなぁ…(考え込む)
 
 
 
 
 
 
 
 

“漆椀づくりを総合的に学べる研修所は日本でここにしかないんです。”

  
 
 

 
 
 

-一つ目の柱である轆轤研修事業。毎年7月から翌年1月ぐらいまで募集をかけているそうです。応募は毎年全国から集まるとか。

 
 
 
貴雄:
応募してくる方は学校卒業後の方が多いんですか?手に職!というのに憧れて脱サラで来るって人もいるとちらほら聞いたもので。
 
 
呉藤:
そうですね。そういう方もいます。大卒も高卒も。今、全体の平均年齢が29歳です。
素人の方が入る基礎コースっていうんですけどこれが二学年制。基礎的なことを終えた人が、更に高度な技術や知識をを勉強する専門コースっていうのがあり、これも二学年制。各学年五人の定員があります。全部で今20人の枠があるわけですけども今全部で15名の研修生が在籍しています。これまで全卒業生105人いるんですけども、そのうち県内の人は1/3、残りは全部県外から来てます。
 
貴雄:
そんなに石川県ばっかりという訳でもないんですね!
 
呉藤:
「木を挽く技術」だけではなく、「漆を塗る技術」、「金で飾る技術」など漆椀づくりを総合的に学べる研修所は日本全国でここにしかないんです。なので、全国からいらっしゃるんですよね。
 
貴雄:
すごい貴重な存在やと思います。日本で唯一の存在ですもんね。
カリキュラムを拝見したのですが、技術だけではなくて教養で書道や華道も学べるんですね。
 
呉藤:
そうなんです。研修生にも好評ですよ。
 
貴雄:
やっぱり木地師をやっていると、茶道や華道など日本の「道」を知ってた方が良いなってことが多々あります。茶道具や華道具など何を目的にどう使われるのかが分かってる分かっていないで向き合い方も変わるなと。
ちなみにこちらの研修所卒業した後に、他の産地に出たとしても同じように漆器業界に携わって行ってる方って多くいらっしゃるんでしょうか。
  
呉藤:
これまで全卒業生105名いるんですけども、この中で山中に残って木地を挽いてる人は25名。約1/4ですね。石川県内になると半分ぐらいになります。その中で、山中に残っている25名のう9名がもともと山中で家業で木地を挽いてた跡継ぎの方です。戸田さん(対談企画 vol.1 「荒挽き師 白鷺木工に学ぶ」参照)のところもそうですね。
 
章二:
9人もおるんか!
 
貴雄:
案外跡継ぎが多いっていうのは興味深いですね。卒業された方は全員呉藤さんをご存じなんですね。卒業後もお世話されてるんですか?
 
呉藤:
そうですね。数年前に前任者が退任された後は、私が良く相談を受けますね。
 
貴雄:
呉藤さんはこちらの職員になられる前何をされている方だったんですか?
ここに至る経緯も是非お聞きしたいです。
 
呉藤:
僕の生い立ちから簡単にお話ししますと…実は、僕は自分が継いでたら六代目になっていた山中の塗師屋の家に生まれ育ったんですよ。
 
貴雄:
そうだったんですか!
 
呉藤:
なもんで、金沢美術工芸大学に行き塗師の勉強もしていました。でも、卒業する年だったかな、父が早くに亡くなってしまったんです。それで家に戻っても継ぐのはちょっと難しいだろしって思って…嫁さんと二人で作家みたいな感じで一年間ぐらいふらふらしてたんです。ただある時、こちらの研修所の募集がありまして。ご縁でこちらに勤めさせていただくことになったんです。
 
貴雄:
それがこちらのセンターが出来たタイミングだったんですね。
 
呉藤:
センター自体は平成9年に出来ています。僕が入ったのは平成10年です。
 
貴雄:
そんな経緯があったんですね。本当に…ご縁ですね。
 
呉藤:
そうですね。そうこうしてるうちに、あっという間に20年以上経ちました。
 
 
 
 
 
 
 
 

“漆器ってどうしても生活「必需品」ではない”

 
 

 
 
 

 
 

-20年以上山中漆器に携わって来られた呉藤さん。やはり気になるのは山中の今昔。

 
 
 
貴雄:
20年以上関わって来られた呉藤さんから見て、山中漆器の浮き沈みとかありましたか?
 
呉藤:
やっぱりそうですねぇ…リーマンショックなんかもありましたし。不況になるとそれが長引いて漆器業界にも影響の波が来る感じです。もう何回か(浮き沈みは)見てきましたよね。
 
貴雄:
やっぱり日本全体の経済の景気に左右されるんですね。
 
呉藤:
そうですね。やはり漆器ってどうしても生活「必需品」ではないので、そういう経済的に落ち込むようなことがあると他の産業と比べてなかなか浮上するまでに時間がかかるんですよね。
 
貴雄:
生徒さんの数は年々どうなんでしょうか。増えたり減ったりしてますか。
 
呉藤:
昨年の令和元年度に募集した時ですかね、滅多になかったのですが定員割れしたんです。それまでは試験の時に落とさないといけないこともありましたが、ほぼ定員と同程度の応募状況でした。
 
貴雄:
やっぱりコロナの影響ですかね…
 
呉藤:
うーん。昨年は景気がまだ良かったんで、例えば高校生にしても、他に求人の話があるんでみんなそっちにいったのかなと思ってたんですけどね。
 
貴雄:
やっぱり職に直接繋がる学校だと世の中の動向によりきなんでしょうかね。
 
呉藤:
個人的には研修生の数は業界の落ち込みとはあんまり絡んでない印象なんですが、とはいえ業界内で仕事がないって話を聞いたりします。
 
貴雄:
そうなると卒業後の進路や活動にも影響出てきますよね。全国的には木地師の数は減っているのに難しい問題ですね。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

第一回おわり(全二回に続く)

 

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