私たちが匠頭漆工です
木地師であるという誇り
匠頭漆工は昭和21年(1946年)、初代であり先代である匠久・久保出政雄が久保出木芸を立ち上げ、その後匠頭漆工に改名。現代表兼職人頭である伝統工芸師二代目久保出章二が先代の基礎を元に、現在の体制を作り上げました。平成25年(2013年)には三代目久保出貴雄も加わり、着々と新しい取り組みを始めています。
二代目久保出章二「60年この仕事一本で来ましたが、今でも日々新しい発見があります。もっともっと木を活かした商品をたくさんの人にお届けできたらと、今でも勉強中です。」
故きを温ねて新しきを知る。
木を知り尽くした私たちだからこそ、生み出せるものがあります。
山中漆器という雄
日本が誇る伝統工芸である漆器はその美しさ、繊細さで人々を魅了し続けてきました。私たち山中漆器は石川県内の「塗の輪島」「蒔絵の金沢」に並び「木地の山中」と称し、その品質の高さから多くの方に愛されています。
山中漆器の特徴は何と言っても“木”という素材そのものを活かす哲学、そしてそれを実現する高い技術力にあります。縦木取りと呼ばれる材料の切り出しは全国でもこの山中独自。効率を優先することなく、自然の流れに沿って木から切り出すことで、強度が増し、その分繊細な挽物が可能になります。そして、木の生きた証である年輪も美しく見ることが出来ます。特筆すべきは、轆轤挽き。手で挽く伝統技法と、職人自ら研ぎ出す刃物を使用し鉄鋼旋盤という現代の技術を融合することで、量産することが可能になりました。私たち木地師が手掛ける「木地」は山中のみならず全国の漆器産業を支えています。
通常、漆器は一つの商品を作り上げるために様々な工程を分業で行い、多くの職人の手を介します。貴重な技術を用い、工程が増えることで自ずと高価になり、“伝統工芸高級品”として人々の生活から離れてしまっているのが現実。今、私たちの日々の生活の器は、手に入れやすく均一な化学素材に取って代わってしまっています。
匠頭漆工では培ってきた技術、知識、経験をフルに活用し、「木」を一人でも多くの方々に手に取って頂き、毎日の生活に寄り添えるような“身近”で“毎日の”器づくりを目指しています。この実現に向けて、木素材そのものの質、単価やデザイン、使い方など多角的に新しい取り組みを進めています。
自然素材「木」の再考
「木」という自然が育む素材は、まさに日本が紡いできた恵み。木が持つ木目や節の美しさ、自然本来の色味、温かみは一つ一つ違います。私たち人間が一人一人違うように、木も一つとして同じものはないのです。
木から生まれる器は毎日の生活を共にすることで変化し、成長していきます。これは自然素材だからこそ。私たちの器 を通して「木」という魅力、そしてこれまで自然と木と日本人が寄り添ってきた歴史そのものを感じて頂ければ嬉しいです。あなただけの出会いの器をお楽しみください。
明日の日本を木で育てる
木を育てる。木で育つ。毎日木に触れ、長年向き合ってきた私たちだからこそ、伝えたいことが沢山あります。木を想うことは自然を想うこと。自然を想うことは自身を想うこと。木という素材そのものを「知る」ことを通して、私たちの根幹である日本や日本の歴史、文化などの魅力や重要性を再認識するきっかけを作りたい。
なお、私たちの器は「磨き出し」をお受けしています。使い込むことで出来た傷や色褪せを表面を磨くことで再生するお手入れ方法です。適切に扱うことで更に長く、共に過ごす器を愛でることが出来ます。
私たち匠頭漆工は「美しい森林づくり推進国民運動 フォレスト・サポーターズ」のオフィシャルサポーターです。フォレストサポータズは現状を知り、森のために出来る行動を起こし、「植えて、育てて、収穫して、上手に使って、また植える」という“森づくりの環境”を蘇らせることを目指す林野庁主導の国民運動です。私たちもモノを生み出すだけではなく、器という存在を通してメッセージを伝え、一人でも多くの方々が一歩を踏み出すきっかけを生み出せるよう尽力して参ります。
作品ではなく、毎日の器に
1) 乾燥工程
-蒸気乾燥-
木を商品に応じた形で粗削りをします。(粗挽き木地)
粗挽き木地を乾燥させるところから、匠頭漆工の仕事は始まります。
〈乾燥時のポイント〉
①2つの蒸気乾燥室
②約2週間で乾燥
③1度で1500個程度の乾燥が可能
④細かい温度調整、湿度管理は器によって異なり、お椀の場合は80℃・IPPONGIの場合は100℃まで上げ、木をしっかり乾燥させます。
2) 外挽き仕上げ
-旋盤轆轤挽き-
お椀・カップなど基本的には外側から挽き上げます。一度に同じ商品を100~1000ヶ程続けて挽きます。鉄鋼旋盤を器に合わせ調整し、挽き上げます。仕上げは職人による小刀掛け、サンドペーパーで行います。
こちらも鉄鋼旋盤を器に合わせ調整し挽きますが、器の外を挟む為、傷がつかないように手作りの木填めを使います。仕上げは小刀掛けとサンドペーパー行います。
3) 内挽き仕上げ
-旋盤轆轤挽き-
基本的には外挽き⇒内挽きの2工程ですが、器によっては面取りという作業があったり、内挽き⇒外挽きでないと挽けないような場合もあります。そういった器の場合は3~7工程必要な場合もあります。
匠頭漆工にはこれまで手掛けてきた商品の形状は1000点以上のぼり、その都度、器に応じた柔軟な対応を行ってきた実績と経験があります。
木は元々水分を多く含んでおり、そのまま加工することは出来ません。そのまま手を加えてしてしまうと器になった後で曲がったり歪んでしまい、漆器では漆が剥がれたりしてしまう為、乾燥工程が不可欠です。従来はこの工程を、半年~数年掛けて行っていました。匠頭漆工では蒸気乾燥を使用し、通常2週間弱で乾燥させることが出来ます。自然乾燥では「100年掛かる」と言われる木素材の中の細い導管の水分も抜くことも可能です。
この乾燥工程では、季節や天気によって、そして何より木の状態によって乾燥温度と湿度が変わります。長年培った経験と知識から夫々の木の素材に一番適切な温度と湿度を設定してあげる事で、木が器になる一番良い状態乾燥状態に仕上げることが出来ます。この技術は木の極限まで細く繊細な加工を可能にする他、使い込む過程でも変形したり曲がりにくくなります。
漆器といえば名前にあるように「漆」が表面に塗られているのものが殆どですが、木地師である私たちのブランドはクリア加工に拘ります。そこには二つの願いが込められています。
一つは木の器の素晴らしさを一人でも多くの方に知って頂きたい、という願いです。木本来の色味と温かみ、一つ一つ異なる木目の美しさ、更にその色味と木目は木の種類によっても全く異なる表情を持ちます。その深みのある木目からは、自然と木の年月、そして日本人の木に寄り添ってきた歴史を感じることが出来ます。
もう一つは木地師の存在をもっと多くの人々に知って頂きたい、という願いです。漆器の歴史と共に木地師の歴史はあります。しかし、これまで山中漆器の中で長くに渡り下支えしてきましたが、木地と木地師の存在は漆の陰に隠れてしまい、その数は年々減少し続けています。匠頭漆工はこの現状を何とか変えたいという願いから、漆器というジャンルから脱却し、木という自然素材の良さを全面に押し出した、全く新たなジャンルの伝統工芸を目指しております。