- 対談企画 vol.1 荒挽き師 白鷺木工に学ぶ (全二回) -

 
 
 
 

第二回『生産地としてのバランスを取り戻す』

 
 

2020/05/31

  

 

石川県には三つの漆器産地が有名。「塗りの輪島」「蒔絵の金沢」そして私たち山中です。「木地の山中」と言われるほど、木地の質・量ともに国内で最高の水準を誇ります。全ての漆器の基礎になる”木地”を支えているのが今回対談をお願いした荒挽き屋 白鷺木工(しらさぎもっこう)さんです。山中温泉の温泉街よりも更に山の奥に入ったところに工場を構える白鷺木工。三世代に渡って丸物木地を作り続けてきました。現在は山中漆器における天然木から作られる木地の生産の5割を担っておられます。

60年以上荒挽き師として山中漆器を支えてきた白鷺木工代表取締役の戸田義治さんは、実は私たち匠頭漆工の二代目とは同級生。人生を共に歩んできた戦友に改めてお話を伺いすることが出来ました。山中漆器の屋台骨を支える荒挽き師×木地師の対談。今回はその二回目(全二回)。>第一回
 

 
 

 
 
 
 
 

<荒挽き師(又は粗挽き師)>
市場で原木(丸太)を選別し買い付けるところから、丸太を輪切りにし、粗方の器の形に挽きあげる職人。”けがき”とよばれる輪切りにされた木を作る器の大きさに応じて印をつける工程は、自然素材である木が持つ年輪や節などの性質によって異なるため、経験と知識を要する非常に大切な作業。大きな原木から、器のサイズに大きな刃物でカットしていくため、常に危険が隣り合わせの作業も多い。私たち木地師は、荒挽き師が作り上げた「荒挽き」のバトンを受け取り、器を仕上げます。

 
 
 
 
 
 
 
 

"すごくグラグラしてるなって感じますね。"

 
  
 
 

 
 
 

-第一回と同様、改めて荒挽き師と木地師が対談をしてみると、自分たちが直面している課題を客観的に実感することとなりました。

 
 
 
久保出貴雄/匠頭漆工三代目(以下久保出):
今山中漆器では、携わる人のバランスが逆三角形のようになっていると思うんです。木材工芸の一番根底である山師が一番少なくて、その次に来る荒挽き師、木地師も少ない。最終的に一番上=一番消費者に近い問屋さんが数多く乗っかってるっていう。すごいグラグラしてるなって感じますね。やっぱり土台の部分が太くないとバランスが保てない。山師さんが太くなって、荒挽き屋さんも上がっていかないとと。
 
戸田義治氏/有限会社白鷺木工代表取締役(以下戸田):
そうだね。グラグラしてる。でも自分たちのように荒挽き屋は、製材機械を始め加工のための機械や工場の敷地そのものの広さとか、始めからやろうとするとなかなか難しい部分がある。例えば丸太を輪切りする電車みたいな機械があるんだけど、新しいのを買うなら1500万ぐらい。中古でも300-400万だからその初期投資を取り戻そうとするとなかなかな。荒挽き屋をしようとすると初めから2000万3000万って機械だけでもかかるからなぁ。そう簡単にはいかないわな。
 
久保出:
慢性的な人手不足はどうやったら解決できるか考えてます。今回の対談みたいに、ものづくりの”川上””川下”に関わる各工程の職人さんに話を伺って、自分達から発信していこうと思っています。荒挽き師さんは荒挽き師からの、山師は山師の視点からの課題や苦労があるだろうから。やっぱり少しずつでも声にしていって、まずは一人でも多くの方に知ってもらうことが大切かなと。
 
戸田:
先日福井市場へ行った時、福井新聞とテレビがその初市を映しに来てたんよ。地元の杉とか松とか出す業者にインタビューしながら、みんなに聞いて回っとるのを横で聞いとった。ほんなら値段が安いってボロクソやさかい、もう仕事を続けていかれんって人ばっかりやったわ。意見みんな一緒なんよ。
本当は福井には良い木があるんやけれど、出す人がおらん。元がどうにもならんもんね。全体的に相場が高くなるとか希望を持てるようなコメントは一切なくて、あぁ今年もこの価格かって悲観的なことばっかり…本当に寂しい話や。
 
 
 

-このまま工芸の根底である山師さんがいなくなれば、作るための材料そのものがなくなってしまうことになる。

 
 
 
久保出:
やっぱりまず何よりも一番取り組むべき課題はそこなんじゃないかなと思います。
 
戸田:
本当にそうだね。今はまだ実感が少ないから考えとらん人が多いだろうけど、一番大変やぞ。誰も自分で切れんもん。木を伐り出す作業賃とか市場までの運賃を包括的に考えてあげて、しっかりとした値段で買い付けをしないとみんな潰れてしまうんや。
 
久保出:
木は自然の材料ですから用意するのが大変。一朝一夕では出来ないし。バリエーションも多いし、何よりも同じものが一つとしてないから希少価値が高い。そう考えると今の価格って安いなって感じます。
 
戸田:
材料としての価値と、市場に出る時の価格の差も大きい。技術と手間賃もあるけど、間に入る業者が多いほど価格が上がっていく。
 
久保出:
そうですね。もっと川上の人に補助金をたくさん出してバランスを整えるのが必要かも。まず山師さんだけに当てた補助金等の制度があっても良いと思います。
 
戸田:
それで出てきた材料を安くたたき買うんだと意味がないけどね。でもそれぞれ関わる人で課題はあるだろうね。自分らは木の心配をするだろうけど、塗る人は塗る人でね課題があるだろうし。
 
久保出:
あると思います。付き合いのある問屋さんに話を聞いたとき、自分達は”ものづくり”をしてないんで、職人さんのところで問屋さんを飛ばされて販売され始めるともう手も足も出ないって。
  
 
 
 
 
 
 
 

"今は何よりも自分達のものが直接売れていくのを見ることが楽しい"

 

 
 
 

 
 
 

-現状を変えるために、私たち匠頭漆工も戸田さんの白鷺木工も自社で息子陣が一念発起してオリジナルのブランドを展開し始めたばかり。

 
 
 
久保出:
息子さんがブランドを始める時はどう思われたんですか?
 
戸田:
最初は職人が外に売りに行くこと自体が嫌だったんや。やっぱりそんな(営業する)時間も惜しんでもの作っとればみんなの仕事があるって考えかたでずーっときとるからね。でも息子は、今ある商流が変化する時代が来るし自分たちで作って売った方が良いっていう。始めはその辺りの意見がだいぶ違ってたね。
 
久保出:
始められて数年ですか今はいかがですか?
 
戸田:
今は受け入れとるかな。そういうことをせんと仕事が薄うなってきたもんね。自分たちが全面的に問屋さんなど仲買の人たちに頼っとったからな。でもやっぱり前進せんとだめやな。でも実際に始めてみると、今は何より自分たちのものが直接売れていくのを見ることが楽しい。今まではそんなこと分からなかったからな。
 
久保出:
木地屋もそうですけど、今までは自分のところの名前って一切出てこなかったですもんね。私たち匠頭漆工もオリジナルのブランドを始めたんですが、同じことを純粋に思いました。日々の仕事のモチベーションにもなるし。
 
戸田:
それに材料は自分のところで取って作って、最後まで出来るのは少し気は楽だね。沢山の人が関わると価格のことやら、また大変なことになるから。でもそれより、何よりも自分は荒挽き師っていう仕事がそもそも楽しい。
 
 
 
 
 
 
 
 

”瞬間的に木を見極めて買う、これが楽しい”

 

 
 
 

 
 
 

-「荒挽き師」が純粋に楽しいと話す戸田さんに最後に改めて荒挽き師の醍醐味を聞いてみた

 
 
 
戸田:
何が楽しいって市場で木を求めてる時間だな。瞬間的に木を見極めて買う、これが楽しい。それも狙った値段で良いものが買えると嬉しいよね。目利きが出来ない人は、悪い木でも良い木でも同じ価格をだすからね。瞬間に良い木を見た方が、自分も取り目はあるし、なんかすかっとした部分もあるし。それや!
 
久保出:
それは面白い視点ですね。加工じゃないんですね。
 
戸田:
加工は稼ぐため仕事だからね。やっぱり市場で何百本、何千本って積んである木のを見て回るには、瞬間瞬間でぱっと捉えられるっていうのは一番大事やね。
 
久保出:
昔より見る目が鋭くなりました?
 
戸田:
鋭くはなったけど、今度は目がうとくなってきた。笑
でもやっぱり昔は木が一杯一杯あったんよ。需要も多かったから今と比べて何倍の値段で売れた。今は良い木出しても高く売れず、木を伐って市場に卸す山師の立場が弱い。更に昔は大きい幹もいい値段で売れたから、それにくっついてくる枝の部分も一緒に市場に出てた。そういう部分は器など小さいものに使えるからね。でも今は良い木も入ってきづらい、幹の部分も売れないから枝も入ってこない。悪循環だね。
 
久保出:
やっぱりどこかが一人勝ちとかではなくて、全体的に上がっていきたいなって思います。私たちの根本である山師さんは特に。私たちが出来る事を少しでも形にしていこうと思います。今まで何年も一緒に仕事をしてきたのに改めて話す機会がなかったので、今回は色々お話を聞けて本当に良かったです。
今後とも宜しくお願い致します。本日は本当にありがとうございました!!!
 
 
 
 
 

 
白鷺木工さんのオリジナルブランド「SHIRASAGI」です。日々の生活にしっくりと寄り添う、チャーミングで温かい器が沢山揃っています。お子様用や名入れなど様々なアイデアがたっぷり盛り込まれた素敵な器たちです。

 
 
 

 -作業の様子を少しだけ…

 
 

 
 
 
 
 
 

第二回おわり(全二回)

 

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