- 対談企画 vol.1 荒挽き師 白鷺木工に学ぶ (全二回) -

 
 
 
 

第一回『山中漆器全体が直面してること』

 
 

2020/05/18

  

 

石川県には三つの漆器産地が有名。「塗りの輪島」「蒔絵の金沢」そして私たち山中です。「木地の山中」と言われるほど、木地の質・量ともに国内で最高の水準を誇ります。全ての漆器の基礎になる”木地”を支えているのが今回対談をお願いした荒挽き屋 白鷺木工(しらさぎもっこう)さんです。山中温泉の温泉街よりも更に山の奥に入ったところに工場を構える白鷺木工。三世代に渡って丸物木地を作り続けてきました。現在は山中漆器における天然木から作られる木地の生産の5割を担っておられます。

60年以上荒挽き師として山中漆器を支えてきた白鷺木工代表取締役の戸田義治さんは、実は私たち匠頭漆工の二代目とは同級生。人生を共に歩んできた戦友に改めてお話を伺いすることが出来ました。山中漆器の屋台骨を支える荒挽き師×木地師の対談。その様子を二回に渡ってご紹介します。 
 

 
 

 
 
 
 
 

<荒挽き師(又は粗挽き師)>
市場で原木(丸太)を選別し買い付けるところから、丸太を輪切りにし、粗方の器の形に挽きあげる職人。”けがき”とよばれる輪切りにされた木を作る器の大きさに応じて印をつける工程は、自然素材である木が持つ年輪や節などの性質によって異なるため、経験と知識を要する非常に大切な作業。大きな原木から、器のサイズに大きな刃物でカットしていくため、常に危険が隣り合わせの作業も多い。私たち木地師は、荒挽き師が作り上げた「荒挽き」のバトンを受け取り、器を仕上げます。

 
 
 
 
 
 
 
 

"夫々が見合った価格で取引をしないと、みんなが回っていかんのやよね。大変や今は。"

 
  
 
 

 
 
 

-昔話は長くなるよ?笑いながら気さくに対談に応じてくださった戸田さんですが、今の山中漆器はどうですかとお伺いすると冒頭から厳しい現状の話に。

 
 
 
戸田義治氏/有限会社白鷺木工代表取締役(以下戸田):
昔は荒挽きの材料自体も沢山あったし、値段も安いのが手に入ったんだけど、この頃はもう木が出てこんようになった。もう木を伐るのに車で横付け出来るところはみんな切ってもうて、山の奥行かんと材料がない。山師が段々林道作りながら進んでは切って来てくれるけども、物凄く人件費がかかって高くなる。
 
久保出貴雄/匠頭漆工三代目(以下久保出):
なるほど…だから価格が上がるんですね。
 
戸田:
そうそう。自分たちが山師の希望に応じた値段で材木を買えば問題なく彼らも仕事が出来る。でも買う側は安く卸さんといかんし、自分達も儲けないといかんから入札の競りで安く買おうとする。そしたら今度は何が始まるかっていったら、山師の二代目が収入が少ないから継がんのやんね。今は福井から米原まで山師が一人もおらんの。
 
久保出:
えっ!
 
戸田:
山師さんがもう辞めたんよみんな。残った人はみんな70代後半。それが自分たちの仕事で一番危ないこと。代わりに自分達で機械を持って山で切ってこうとすると、すんごい手間賃がかかるのよ。だから荒挽き一つの価格が通常300円とすると、700円とか1000円のクラスになってくる。今市場の人にも、もう身一杯の入札金額を書いてくれって言われる。そうじゃないと木が出てこんと。彼らも出来んし、自分らも出来ん。それが一番の課題やね。
 
久保出:
今木材の仕入はどちらに行かれてるんですか?
 
戸田:
岐阜の市場だよ。岐阜は日本中から一番材木が寄ってくる場所なんやけど、今はものすごく少のうなった。取りやすいところは取ったんで、もう奥の方にしかないってこともあるけどな。切る人がおらんようになったんよ。それで匠頭漆工さんみたいに一度に1000~2000個のまとめた注文をもらうと、市場に行っても出てこんで材料を集めるのが大変。福井の市場は日本で一番有数の欅(けやき)の質が良いのが出るから人気はあるんやけども、毎月3回の市場があったのが段々1回になり、今では2か月に一度になったわ。昨年末は予定されていた市場が木が集まってこんので中止になったんよ。
 
久保出:
そんなに顕著に…
 
戸田:
市場自体がなくなると大口に応じられんのよ。関東や岩手の方にも市場はあるけど自分たちで行かれんし、そうなると市場を渡りながら仲買する人に頼むんよ。価格は高いのを買わんとならん。夫々が材料にようけ銭を払って買ってる。本当ににみんながみんなが”合う”値段で仕事していかんとな。一人で細々とするならば出来るけども、ものづくりとして何れも成り立たなくなる。
今特に欅もないけど、栃なんかもないようになったしね。入札の時は本当に大変で、普通は競りの入札の時に希望の価格を買くんだけど、最近は価格じゃなくて「頼む」って書く。もう日本一の価格を出さないと競り落とせないってことやんね。でもそんなことしないと集められんからねぇ。それが一番今から大変なとこかな。
 
久保出:
ものづくりの一番根本を担っている山師さんが減ってるっていうのが一番問題なんですね…
 
戸田:
それぞれの職人もしっかりとした加工賃をもらう、払う。山師さんの希望価格で仕入れる。一つずつ見合った価格で取引をしないと、みんなが回っていかんのやよね。大変や今は。
時々2000個とか数量がまとまるから安うしてくれって人がいるけど、大量生産じゃないから数が増えても仕入額は下がらない。そんな人はもうお断りだよって言うね。みんな夫々が苦労して商売したらいかん。
 
久保出:
材料になる木そのものはあるにはあるんですか?
 
戸田:
あるにはあるが、取りづらいところだけになってしまったっていうのが一つ問題。そしてやっぱり木を切る人の日当というか給料的な部分をしっかりと考えないと誰もやってくれない。職人もみんなそうやけどね。
 
久保出:
だから木地屋もどんどん少なくなったってのもあると思います。
以前政府が山師、林業関係に補助金出したって聞いたんですけど、効果はあったんだすか?
 
戸田:
若い人を中心に少しは増えたみたいだよ。興味持ったというか。でもやっぱり補助金出さないかんとなると、その仕事をする人のそもそもの儲けが少ないってことやよね。
 
久保出:
そうですね…補助金なしでもある程度豊かに暮らせるようじゃないと。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

知識と経験に裏打ちされた”感覚”が支える荒挽き師の仕事

 

 
 
 

 
 
 
久保出:
今荒挽きの主な業務は息子さんがやられてるんですよね?
 
戸田:
そうそう。でも、丸太に鉛筆で輪を書くのはわしの仕事*やけ。どこに傷や節があるかを見ながらやる本当に大事な仕事。
 
 
 

<*けがき>
原木から輪切りにされた木に、作る器の大きさに応じて印をつける工程。自然素材である木という素材は、一度切ってしまったら土やガラスのように修正が効かない。そのため夫々の木が持つ年輪や節などの性質を見極める必要がある。この配置によって材料を活かすか、無駄にするかが決まる、経験と知識を要する重要な作業。

 
 
 
久保出:
あれは全て感覚ですよね。それに市場で木を見極める目もすごいなって思います。市場で買い付けをするのもやっぱり経験が必要ですよね。木の見極めってどうやって行うんですか?
 
戸田:
見極めは木を輪切りにした時に、如何に器が沢山取れるかってことを考えることやろね。中に傷があるかないかってのは外の皮の傷とかこぶの膨れ具合、あとはチェーンソーで倒して切った時の断面部分の年輪の細かさとかで分かる。でもその二点しか見れんし、大体市場の人は傷を下にして寝かしてあるもんで、持ってくるとありゃーってのが多いけど。この間も思いっきり価格出して買った木の内側にでっかい節が合った。かなんなあ。笑
 
久保出:
(笑)
最近は建材関係の人が結構いらっしゃるって聞いたんですけど?
 
戸田:
そうだね。そこでも需要があるから欅も檜もすーーんごい高くなってもうたわ。まだ杉は植林したやつが大量にあるから市場にも沢山出てくるんやけど、檜は少ないしなぁ。希少価値が上がるから、高い値段出して持って帰るんよ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

親と子で共に歩むということ

 

 
 
 

 
 
 

-実は白鷺木工さんも匠頭漆工と同様、以前は公務員をしていた息子さんが戻ってきて家業を手伝っています。同じ境遇である二社だからこそ分かる、世代の違う親子で営む経営の良さと難しさについて話すことが出来ました。

 
 
 
久保出:
息子さんが仲間に加わってどれぐらい経つんですか?
 
戸田:
今から7.8年ぐらい前かな。息子が務めていた市役所を辞めて家業に入りたいって言われた。その時は考え直してくれって思っとったよ。折角大学出て入った職場なのにって。でも今は嬉しいよ。たまにもう一回市役所戻ってくれんかなって思ってるけど。笑
 
久保出:
白鷺木工さんは今息子さんが荒挽きの仕上げを、娘さんが自社のブランドを立ち上げ、その営業の担当をやってらっしゃるんですよね。
 
戸田:
そうだね。息子が来てから若い世代の人を応募したりして、今はメンバーに若い方も多い。
 
久保出:
こういう職人の仕事って会社勤めと違って死ぬまで出来るから良いですよね。実際に定年退職の延長、年金問題などもあるし手に職があって、退職もなく関わっていけるのは大事なポイントかなと。
 
戸田:
指は足らんようになるけどね。笑  (危険な機械を日々使うので、指を落とすことが珍しくないそう…)
匠頭漆工さんはやはり二代目、お父さんの技術がすごい。あのワイングラスは出来ない。
 
久保出:
中々売りに繋がるまでが難しいですよね。あとは、今は社長である父が大きな病気はしてないから毎日変わらず当たり前に仕事をしてますけど、その技術をや知識を含めてちゃんと継承していかなきゃとは思ってます。
 
戸田:
やっぱり自分の調子が実際に悪くならないと親身にならんわね。最近悪性の癌って一時診断されたことがあったんだけど(実際は良性だったので一安心)、時間が有限になるって思うと伝えないと!っと指導に力が入り、今まで言えなかったことも言えたりしたもんね。
 
久保出:
父とは普段は特に問題ないんですけど、仕事の方向性となるとやはりぶつかりますね。父はまさに昔堅気の職人だから。
 
戸田:
うちも上手い事いっとらんなあ。笑 気は合うけど、そんな仕事のことはぴったりはいかんよ。昔からやってきたもんと、色の違いはあって当たり前やからね。
例えば山中の職人っていうのは昔の”職人”の中でもそこそこ人数も多かった。だから給料は日当みたいなもんだったし、生活保証も掛けてなかった。シーズンによって発注の波も大きいしね。昔は保証なんてない時代でずっときたからね。でも今そんな条件だと誰も来てくれんわ。その分加工賃に反映させないと採算が合わないよね。
 
久保出:
そうですね。今はうちでも色々整えている部分があります。
父が長年経験してきて当たり前だと思ってやっていること、考え方が自分と合わなくてよくぶつかります。でも、その経験や知識があったり、見方も違ってた方が色々意見がでて面白いですけどね。折り合いを付けながら、当たり前の負の部分にはテコ入れをしていけたらと思います。
 
 
 
 
第二回につづく…)
 
 
 
 

第一回おわり(全二回)

 

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