- 対談企画 vol.2 下地師 上田敏樹氏に学ぶ (全二回) -

 
 
 
 

第二回『一つ一つ出来上がる悦び』

 
 

2020/09/08

  

 

私たち山中漆器の器は、いくつもの職人の手を経て完成します。(詳しくはOtaku記事vol.02参照)その様々な工程の中でも、木地屋と密に関係があるのは私たちが挽いて作った器が行く次の工程、下地を塗る作業です。第三回目のの対談相手は、私たち匠頭漆工の器に下地や拭き漆を塗る下地職人の上田敏樹さん。お一人でやられているという工房は、沢山の漆と沢山の木の器が所狭しと並べられ、至る所に拘りがギュッギュッと凝縮したような空間です。
 
相棒の猫のまーちゃんがうとうとと眠る側で、一人で淡々と作業をする上田さんは伺った日も手を止めることなく作業中。改めてお話を伺うということで我らが二代目章二お父さん、三代目貴雄、三代目嫁緋沙子と大勢が集う新しい対談となりました。今回はその最終回をお届けします。(全二回)>第一回
 

 
 
 

 
 
  
 
 
 
 
 

"塗り終わってめっちゃ綺麗になった~良かった~って"

 
  
 
 

 
 
 

-大勢の職人を抱える匠頭漆工とは打って変わって、一人の工房で黙々と作業する上田さん。普段はどんな様子で仕事をしてるのか気になってしまいました。

 
 
 
 
久保出貴雄/匠頭漆工三代目(以下貴雄):
日々塗る作業をするなかで、気持ちが乗りやすい時間帯ってあるものなんでしょうか?
 
上田敏樹氏/下地師(以下上田):
大体朝の8時ぐらいから始めて、夜の9時ぐらいまで、その時間までずーっとおんなじテンションでやってる。
 
久保出章二/匠頭漆工二代目(以下章二):
休みの日が一番仕事しやすいんや。電話ならんし、人は来んし、自分の好きな時に休めるし。
 
貴雄:
8時から9時はすごいなぁ・・・
 
上田:
9時ぐらいまで毎日仕事が出来るなんて久保出さんのお陰なんで。
 
章二:
(お父さん嬉しそう)職人が時間を数え始めたら終わり。あと何時で止めれるなんて思ったらだめ。結局疲れるとやる気が段々なくなってくるから、その時に止めればいいし、それまでただただやるだけ。
 
久保出緋沙子/匠頭漆工三代目嫁(以下緋沙子):
そういうものなんですね!
 
上田:
大体9時ぐらいまでが精一杯。気持ち的にはもっと出来るんだけど、それ以上やっとると次の日が辛くて。
 
章二:
出来栄えにも必ずどこかに影響がきとるしね。どんどん木が(手から)離れていく感覚。
 
緋沙子:
でも気持ち的には出来るんですね。ずーーーっと。
 
上田:
出来る。ずーーーーーーっと。
 
章二:
酷い時は朝8時ぐらいに始めて、気づいた時には朝の2時とか3時とかになってたこともあるなぁ。
 
上田:
拭き漆と焼き鳥屋さん両方やってた時は、お店から帰ってきて夜の一時ぐらいから明け方まで塗りの作業しとって、でそれから午前中寝て、昼からまた拭き漆して、夕方から焼き鳥屋さんやって。そんな滅茶苦茶やっとったなぁ。でも、続かんよ。
 
貴雄:
荒挽き師の戸田さんにも聞いていたんですけど、上田さんはこの仕事をやってて嬉しい瞬間とかやっててよかった瞬間ってありますか?
 
上田:
こうやって一つずつ塗り終わってめっちゃ綺麗になった~良かった~って、まぁそれぐらいかな。
 
緋沙子:
すごいシンプル!やっぱりご自身で追及されているからなんですね。お父さんはいつが一番って思いますか?
 
章二:
やっぱりうちは木を削るさかいに、一つ削り終わった毎に嬉しくなるわ。やっててよかったなぁって。(品質が)悪い木をうまく削れたときも、おーこれも良くなった!って。
 
貴雄:
あー分かる。こんな悪い木をこんなに少ない手数でむっちゃ綺麗にしたやん俺!ってなる。でもその反対もある。一喜一憂ですわ。
 
章二:
刃物を自分で作った時もそうやね。その出来がものすっごい切れる時なんかは、うわーー嬉しーーって感じやもん。反対に一生懸命作って切れなかったらガクンとくる。自分は何のために一時間、二時間かけて刃物作ってたんやって。
 
 
 
 
  
 
 
  
 

"「安心して使ってますよ」ってそういう声が増えてくれば良いなって"

 

 
 
 

 
 
 

 

貴雄:
上田さんは目止めも拘りがすごい強い。
 
上田:
そういってもらったらすごい嬉しいんだけど、実は今の状態ってちょっともう飽きてきたかなってのもあって。今は拭き漆をもっと強いのが出来たら良いなって思ってる。拭き漆って塗膜が薄すぎるんや。今はサランラップ1枚の厚さぐらいじゃないかな。それをスポンジかなかでガサガサっと何回か洗ってたら、そりゃ削れるはずなんやね。勿論、木の表情を綺麗に出すには一番だなって思ってるんだけど、(強くするために)塗膜を厚くしたりするとその表情が消えてしまうでしょ。だからそこを研究して、「ここや」っていう何か見つけれたら、またそこから新しい喜びが生まれるなって。
 
貴雄:
拭き漆はやっぱり使ってると結構剥げて直しを入れないといけなくなるっていうものありますよね。
 
上田:
この薄い塗膜ですっごい強い表面にするには一番下が肝心なのか、一番上の仕上げの何かが大事なのかどうなのか…って日々考えとる。修理の依頼で送られてくるものを見るたびに、こんな…何これ…どうやって使っとったん?とか。本当に普通の生活の中でこうなったん?って思ってしまう時あるもんね。
 
緋沙子:
どこが削れてることが多いんですか?
 
上田:
飲み口の部分と椀の底の部分だね。
 
章二:
底は箸があたる。あとはスプーンとか使う人も多いからね。本当は木のスプーンが良いんだけど、ほとんどの家庭は金属のスプーンしかないところも多いのも現実やな。
 
上田:
色々研究して、一人ひとりの使っとる方々の「剥げることが一切ないです」「安心して使ってますよ」っていう声が増えてくれば良いなって思ってやっとるよ。
 
 
 
 
 
 
 

ぼそっと感のある「途中ですよ」ってのがなんか良いみたい。

 

 
 
 

 
 
 
 
章二:
上田くんが、絶対に剥がれないっていう試作品をこないだ見せてくれたんよ。
 
上田:
下地コーティングが錆。めっちゃ強くてとにかく取れない。ただし価格が高くなるのと木目感ゼロ。雰囲気はぼそっとした、石というか、ちょっと焼き物っぽい感じになる。見た目とインパクトもあって面白いけどね。強度は実証済みなんよ。友人が実験で半年以上かなりやんちゃに使ってるけど全然大丈夫って。家庭用なら食洗器もいけるよ。
 
貴雄:
漆で食洗器いけるって面白いですね。
 
章二:
漆の塗った質感を知ってる人はこういうのを見ると、なんで途中のままなんやってなる。
 
上田:
そう。漆器関係者がこれをみても、「これがどしたん?」ってなる。
 
貴雄:
これで仕上げになると新しいから面白いかもしれない。あんまり見たことないし。
 
上田:
なんでこういうのを作ろうと思ったかというと、全く漆器に関係のない人が遊びに来たりして、その下地をした状態のものを並べとくと、うわーこれすごいって言うん。いやいや、こんなんでまだ全然使えんし途中ですって言うんやけど…何回も何回も同じことがあったんよ。これがいいん?じゃぁ、それでちゃんと使える食器を作ってみたらいいんかなって思ったんよ。まあ無理やろうなって思いながらも、まずは配合をあーだこーだして耐久性のとこをちょっと実験したりしてる。このぼそっと感のある「途中ですよ」ってのがなんか良いみたい。
 
貴雄:
手作り感があるからいいのかな。この塗りむらっていうか筋って言うか。
 
上田:
そうなるとヘラ跡も見て欲しいって思って。漆器関係者だけでジャッジせずにね、試していこうかなって。
 
 
 

 -最後にこれからの山中に関してお伺いしてみました。今は山中漆器は盛り上がりを感じますか?一時の活気が戻ってきたなと感じますか?という質問に対して力強い回答が!

 
 
 
上田:
ある!!やっぱり、仕事の量が去年2019年辺りから増えてきた。勿論久保出さんのお陰もあるし、それ以外の仕事も結構増えてきてる。今はお椀が中心やけどね。
 
貴雄:
木地屋さんもそうやけど、下地屋さんとか目止め屋さんとかそういう仕事もやっぱり世間には知ってもらいたいなっていうのがある。じゃないと業界内部の人間は失われていくって事を知ってるけど、一般の人はその職業そのものそれすら知らないから。下地屋も途絶えそうになったっておっしゃってたし。
 
章二:
先代であるじいちゃんが木地屋を始めた40年前頃、山中漆器全盛期やね。その時に中国から大量にものが入ってきた。しかも彫り物しても無地でも白木地でも本当にタダ同然の価格でね。しかも中国は彫り物が上手だったからな。とにかく山中で作るものとは比較にならないほど安価だった。だからこれはどういうことなんだろうってみんな不思議がってたよ。
 
上田:
仲介業者さんは儲かるかもしれんけど、職人はもう辛いだけやもんね。その辺りから、だんだん駄目になっていったんじゃないかな…その品物を買ってもらって喜んでもらうなんてことを一切考えずに、単なる作業効率と売上だけを追及する。そりゃ駄目になってくよね。
 
章二:
今になって、中国のものじゃなくて日本産がいい、尚且つ価格は拮抗してくれんかって言う。でも今となっちゃ誰も彫るもんがおらんのよ。上田くんみたいにいかん!って思う人が増えるといいよね。
 
貴雄:
上田さんがおっしゃるように新しい風が吹いてきている兆しはある。自分たちも出来る事を一つずつやっていきたいと思います。まずは「知る」ことそして「伝える」こと。またお話伺わせてください。本日は誠にありがとうございました。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

第二回おわり(全二回)

 

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