- 対談企画 vol.6 木地師作家 生地史子氏に学ぶ (全二回) -

 
 
 
 

第二回『木の器に親近感を持ってもらうということ

 
 

2021/07/28

  

 

これまでの対談は、私たち匠頭漆工のアイテムが出来上がる工程に携わって頂いている方々とのものでした。今回は少し視点を変えて、同じ『木地師』ではありますが、個人で制作を行っている生地史子(しょうじふみこ)さんにお話をお伺いしました。
 
生地さんは今年活動15年目になる木地師さん。ご自身で作家仲間と工房を持ち、山中漆器の一員として色々な企業や作家さんからの注文を受ける傍ら、ご自身の一点物の作品も制作していらっしゃいます。独立して活動している作家さんと、異なる角度から『木地師』の話。沢山の共通点や新しい発見満載の対談を全二回でお届けします。二代目 章二、三代目 貴雄ダブルで参加です。今回はその最終回。(第一回目はこちら>
 

 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

"これ眺めながらお酒飲めるわーってやつとか出来たら本当に嬉しいです。"

 
 
 

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-作家として活動を続ける生地さんと「一点ものの作品」を作ることについての話に。

 
 
 
久保出章二/匠頭漆工二代目(以下章二):
一品もの作ってる時だと、なんか麻痺してまう感覚があるやろ。「これは最高のものが出来た」って自分では思うけど、後から、あら大したことないなって言われると「くーって」ってなる。なんでやろって。自分で作ってるとよー見えてくる。笑
 
生地史子氏(以下生地):
そうですね。私も展示会があると自分で何となく「これ絶対売れるわ」ってやつがたまにあるんですけど、外れる時があります。笑 「これ絶対良い!」って思ったら、それがぽんっと早く売れていく時もあるし。
 
久保出貴雄/匠頭漆工三代目(以下貴雄):
その時は嬉しいですよね。
 
生地:
嬉しいですね。これ眺めながらお酒飲めるわーってやつとか出来たら本当に嬉しいです。それがまたこう世の中に出ていくと、ちょっと寂しい反面、やぱり良くできたものは見て欲しい、使って欲しい、世の中に出ていって欲しいって思うので、それが誰かの手渡ると嬉しいですね。
 
章二:
でも一番寂しいことは、木製品を評価できる人が誰もおらん。評価出来る人がいたとしても、山中のものしか評価できない。それじゃもう意味がない。それが自分は一番寂しいし悔しい。これのどこがいいんですかっていうと、「木目が付いとる」と。あぁ木目が綺麗ですねってなる。あとはどこがっていうと、いや木目ですって。形やその他の技術はもう見たことないさかい分からんのやね。地元の人がいいって言うだけで、他に持って行った時それがいいんか悪いんか気にはしないんやろねって。
 
生地:
もう地道にやっていくしかないですよね。
  
章二:
そうやって。それにしても一般の人が簡単に木地を挽けんっていうのが一番デメリットやな。それが一番でかいやんねぇ。簡単なんか難しいのかもわからんし。生地さんは陶器はやったことあるんかい?
 
生地:
あります。陶芸教室通ったことあります。一番最初、その博物館のマネージメントを勉強し始めた時に、陶芸教室通い始めました。(ものを)まず作ろうって思って。
 
貴雄:
ものづくりのはじめって、陶芸が一番入りやすいじゃないですか。それはつまり、陶器はやっぱり評価する人がおるってこと?
 
章二:
趣味として出来るから、難しい、簡単やってのが段々素人目にも分かってくる。焼いて色を付けてみても思うような色が出ない。そう簡単に作れんのやんね。そうなると、出来る人がすごいなっていう。形を作るよりも陶器は色具合を一番評価するさかい。次にその形とぴったり合ってますねって。誰が焼いても出来んのやよ。そうすると名前が売れて、高くも売れるんよ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

“個人で少量生産でやってるからこそ出来る事ですね。”

  
 
 

 
 
 

-では私たちが携わる「木」について考えた時、みんなで空を見上げてしまった。

 
 
章二:
体験教室とか、いや、それもやっぱり危ないさかいに簡単には出来ない。
 
生地:
私もその入り口については思ってて、轆轤もそうですけど設備が大掛かりだから趣味でやろうと思っても簡単に出来ないし。
 
貴雄:
無理ですねぇ・・・
 
章二:
ちょっと危険すぎるってのもあるさかい、一つ刃物当てたぐらいで、本当に凶器になるからね。
 
生地:
だからちょっとやってみようかなで始めることが出来ない。結構覚悟を持って最初からやりはじめないといけないジャンルだなと。
 
貴雄:
でもすごく身近な素材ではあるから、手に取るとやっぱり木と陶器とはやっぱり違いますよね。軽いし、温かみがあるし冷たくないし。
なんか入り口が広がるってすごい大事やね。自分で作ることは難しいかもしれないけど、実際に手に持つとか使うとか、知る、体験して親近感を持ってもらうっていうのはキーかもしれないです。
 
生地:
今、自分で密かにやっていることがあって。普段は山中の材料屋さんや組合でも材料を買うんですけど、木を扱ってると大工さんや植木屋さんなど色んな人が、「どこどこで木を伐るけどいるか?」っていうのを教えてくれる。それで、丸太のまま一本頂くことが多くって。これだったらピンポイントでどこどこの山に生えてた何々の木っていうのが分かるじゃないですか。例えば○○神社に生えてた○○の樹齢○年の木って。今までも茅野の大杉で作った茶筒とか“謂れのある場所”のものはあるんですけど、そういう“謂れのある場所”だけじゃなくて地元のどこどこに生えてたやつっていうのもその商品にも明記して出すことをしています。
 
貴雄:
それ面白いですね。今まで自分たちも作ってる側であるのにも関わらず、実際その使っている木をどこでどう採ってるって知らなかったし。先日初めて市場には行きましたけど。
 
章二:
それ今要望が多いね。これいったいどこの木なんやって。100%じゃなくても何県ぐらいは分からないかなって言われることがすごく多くなったね。
 
生地:
でも面白いですよね。例えば久保出さんちの庭でとれた桜!みたいな。久保出さんて誰?って突っ込まれたりするのも面白いし。笑
 
貴雄:
産地とかとれた場所とか分かれば、ゆかりのある場所やったり、一回でも足を運んだことがあるとそこからぐっと身近になる。そこから更にストーリーが出来るから、すごい広がりがあるなって思います。あそこの通った近くにこんな神社あったんやなぁってなったりとか。
 
章二:
それも一辺市場に聞いてみるといいね。木は番号で管理されてるから、調べていくと分かるはずなんや。
 
貴雄:
我々は数をこなすので、千本あったら千本ともとか全ての情報を管理するのは中々難しいかもしれないけど…例えば福井市場で買ったよって言ったら、福井・富山・石川のどこかだろうって話はしてたから、それぐらい分かるかもしれんね。そういう意味ではやっぱり、直で仕入れてきて一から全てご自身でやれるのは強みですね。
 
生地:
個人で少量生産でやってるからこそ出来る事ですね。こういうピンポイントで分かるようになると、急に親近感が湧いてくるというか。なんか今までなかった入り口が出てきそうだなって思います。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

木材不足と間伐材

 
 

 
 
 

 
 
章二:
うちもいずれかは、自分のとこでも製材がある程度出来るようにしようかって言うとるんやけどね。っていうのもほら、今は数を作って仕事にしているけど、それがちゃんとピンポイントにして、しっかり値段も取れていけばそんなに数をようけしなくても良い。そうじゃないと、もう木が足りんさかいに。樹脂とかプラスチックみたな化学物質じゃないからね。これから木はもっと入らんようになると思うよ。今でさえ入らんっていうのに。
 
貴雄:
状況を好転させるために、命がけで木を伐採している山師さん自体の状況も改善出来て、更に今はあまり使えてない…例えば間伐材の杉とかを使えるようになったらいいんじゃないかなって思うんやけど。
 
生地:
私も杉を挽くことありますけど、(商品ってなると)難しいですよね。柔らかいのですぐかけるし。
 
章二:
あの針葉樹自体は使うのが難しい。戦争が終わってから、住宅建設需要の増加から木を植えようって言って杉だけを植えたんよ。そしたら皆花粉症になるわで。ただ植えるだけで終わってしまって、後の手入れは全くせんやろ。そしたらみんなただの使い物にならん木が出来る。ちゃんと間伐材って間を空けてやらんと、栄養不足の木が出来るし、枝を取らんともう穴だらけやし。
 
生地:
福井の河和田の轆轤舎さんって言うお若い方がやってるとところなんですけど、そこは杉の植木鉢作ってます。
 
貴雄:
存じております。身近なアイテムかつ轆轤挽きで何が出来るか…
山中の木地師仲間で「間伐材どうする会」とか作ってみても面白いかもな。
 
生地:
そういう集まれるところがあると、一人では出来ないことが出来たりするから面白そうですね。
 
貴雄:
実際自分も学校は行ってないんで、全然木地師さんの知り合いとかいないんですよ。そもそも、山中漆器自体って横の繋がりが結構薄いという。だから
新しい縦と横の繋がりを作れたらって思います。今後とも、色々情報交換させてくださいね。この度はお時間いただきありがとうございました。

一同:
ありがとうございました!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

第二回おわり(全二回)

 

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